どの道を行くべきか③

3年前、母が脳梗塞をした。

突然顔の片側が引き攣ったと言っていた。

そのとき母は、父と言い争いをしていたらしい。何かをなくしても、何かがうまくいかなくても、全て母のせいだ。そして声を荒らげる。意見を聞かなくなる。

いつものことだ。

頭に血が上ったと思ったら、脳が詰まった。

今では軽い冗談で言うけれど、恐ろしいなと思った。

 

その時は私はまだ実家に住んでいて、電話で事の次第を父から聞いたのは仕事中のことだった。たしかラウンジにいた。眼前に広がる街の風景を見ながら、ああ、私もそんな年なんだなとぼんやりと嫌な気分を受け止めていた気がする。

ひとまず帰りに医療センターに車を走らせた。

 

医療センターにつくと、ちょうど父も待合室で検査の終了を待っていた。

すぐ後に看護師さんが駆け寄ってきて、母の脳関係の既往歴を聞かれた。

父はないと即答した。

「そんなわけあるか」と思った。母は父に突き飛ばされて頭を負傷し、脳の浮腫により1か月入院した過去がある。ちなみに父は私がその過去を知っていることを知らない。母からあなたにだけ、と聞いたのだ。ちなみにそんなことを私に話す母にも幻滅したものだ。「娘なんだから」「聞いてあげればいいのに」他人はそう思うのかな。

 

力が抜けた。でも私は何も言わなかった。

そこで私が暴露したことで引き起こされる、余計な父の感情の台風に巻き込まれるのが嫌だった。後になって看護師さんにひっそりと告げ口をした。

でもわからない。事実、めんどくさいけど、本当は父が怖いのかもしれない。

幸いなことに、母の予後は悪くはならなかった。